涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あらそう。会員登録する手間が省けて良かったわ。じゃあ、そこのショップでトレーニングウェア買って早速、始めるわよ」
「はい…」
仕方ない。頑張るしかないか…
と思ったけど、工藤さんの鬼コーチぶりはハンパなく、もう限界…
「工藤さん…ダメです。これ以上は、無理…」
「もう根を上げたの?情けない…
まぁ、初日だし、今日はこのくらいで許してあげるわ」
「あ…有難う…ございますぅー…」
あぁ、やっと解放された…と喜んだのもつかの間
工藤さんから一枚の紙を渡された。
「取り合えず、それにこれからの島津さんのスケジュールを書いておいたから、サボらず頑張りなさい」
「ゲッ!!何これ…」
分刻みでビッシリ書かれたスケジュールに唖然!!
「明日、マダム凛子が東京に戻るから私も帰る事になるわ。
もう島津さんに付き合ってあげられないけど、このスケジュールをこなせば大丈夫!!
3㎏なんて、直ぐに落とせるわ」
涼しい顔をして笑う工藤さんに、やんわり殺意を感じた。
こんなハードなスケジュールをこなせば、嫌でも痩せるわよ!!
てか、その前にボロボロになって倒れるよ!!
すると、私の気持ちを察したのか、工藤さんが真剣な顔で話し出した。
「これがプロのモデルの世界よ。
努力しない人にチャンスなんて訪れない。
甘えちゃダメ!!あなたの代わりなんて、いくらでも居るんだから」
ドキッとした。
そして、猛烈に反省したんだ…
そう…マダム凛子のショーに出たいと思ってるモデルは山ほど居る。
皆、認めてもらいたくて必死に頑張っているんだ。
素人同然の私は人一倍、努力しないといけないのに…
「すみませんでした。頑張ります」
頭を下げた私の肩を優しく撫でてくれた工藤さん。
「島津さんなら大丈夫。
マダム凛子が選んだモデルですもの
あなたがどんな魅力的なモデルに化けてくれるか…楽しみにしてるわよ。
期待してるんだから!!」
「工藤さん…」
彼女の言葉が胸に沁みた。