涙と、残り香を抱きしめて…【完】
あぁ…自己嫌悪…
自分の意思とは関係なくトントン拍子にモデルになる話しが進み、私はいい気になってたのかもしれない。謙虚な気持ちを忘れていたんだ。
そんな自分が情けなくて、マンションに帰っても気分は晴れずどんよりとしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「成宮さん…」
「ちょっといいか?話しがある」
「うん」
私の肩を抱き軽くキスした成宮さんがニッコリ笑いリビングに向かって歩き出す。その後ろを少し距離を取り付いて行く私。
「実はさ、前に話したと思うけど、明日、凛子先生と東京に行く事になったんだよ」
「…そうなんだ」
嬉しそうに話す成宮さんを見ても、なぜか笑えなかった。
それは、あの"嘘"のせい?
「で、俺達の結婚の事なんだが…
星良の両親に挨拶が済んでないのにどうかと思ったんだけどさ
凛子先生に報告してもいいかな?」
「えっ…マダム凛子に?」
「あぁ、別に隠す事じゃないし、どうせ直ぐバレるだろ?」
「う、うん…そうね」
小さく頷く私の手を握り優しく微笑む彼を見て、あの事は私の考え過ぎだったのかな…なんて思ってまう。
他に好きな女性が居たら、結婚しようなんて言わないよね?
「ホントに…私でいいの?」
「…なんだよ。変な事言うなぁ。当然だろ?」
「もし…私の事がイヤになったら…」
最後まで言い終わらない内に唇を塞がれた。
「星良をイヤなにるワケないだろ?
俺が愛してるのは…星良だけだ…」
「なる…みや…さ…んっ」
信じたかった。成宮さんのその言葉を…
もう大切な人に裏切られるのはイヤだ。
一人ぼっちになりたくないの…
一人は…イヤ…
私も、成宮さんを愛してるから…
愛してるから…
だからお願い。私を一人にしないで…