涙と、残り香を抱きしめて…【完】
【大切な想い】
遅すぎた決断《水沢仁side》
《水沢仁 Side》
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久しぶりに会った凛子と別れマンションに戻った俺は、安奈が帰って来ている事を確認して部屋の扉を閉めた。
さて…アイツになんて言うか…
凛子に"至難の業"と言われた安奈の説得。
そんな事、言われなくても分かってる。安奈が簡単に納得するとは到底、思えない。
だが、もう俺は、自分の気持ちに嘘を付き続ける事が出来ないんだ。
星良を抱きしめキスした時、俺は確信した。
やはり、俺は星良を忘れる事など出来ないんだと…
星良の居ない人生に、なんの価値も無い。
あの夜、俺は星良に成宮が見つかった事を伝えようと部屋を訪ねた。
だが…安奈の事を謝り、成宮が会社をクビになる事はないと話したが、成宮が見つかったって事は言えなかった。
いや…言いたくなかったのかもしれない。
自ら星良を手放しておいて、勝手な事を…と呆れながらも、抑え切れないこの嫉妬という感情。
だらなのか、今まで冷たく突き放してきた星良に優しさを見せてしまったんだ…
すると、アイツが思いもよらぬ事を口にした。一瞬でも、自分の事を本気で好きだと思った事があるか…と…
そんな分かり切った事など聞くな。
俺は、今でもお前を愛してる。
でもその言葉を言う代わりに、俺は星良を抱きしめていた。
イケナイと思いながらも、そうせずにはいられなかったんだ。
抱きしめるだけなら…
キスするだけなら…
そう思った俺が甘かった。
指に触れた白く滑らかな肌は以前のまま。柔らかい唇も、絹の様な髪も…
俺が知ってる星良…何も変わっちゃいない。
俺のモノだった頃の星良が、そこに居た。