涙と、残り香を抱きしめて…【完】

俺の唇を求め甘える様に舌を絡めてくる星良。
成宮の事を好きだと言いながら、抵抗する事無く従順に俺を受け入れている。


成宮への想いは偽りでは…と疑問を抱いた俺は心中穏やかではなかった。


俺達の"関係"は、まだ終わってはいないのか?


星良は今でも俺の事を…


もしそうなら、星良を取り戻したい。
今なら、まだ間に合う。


いっその事、このまま星良を抱いてしまおうか…


邪な想いが頭の中を駆け巡る。


…星良、知っているか?


お前の泣き顔の次に俺が好きな星良の顔は、酔った時の顔だって事を…


微かに揺れる妖艶な眼差しで見つめられると俺の男心が眼を覚まし、どうしようもなく体が疼き出す。


ほんのり色づいた頬は堪らなく可愛くて、濡れた唇はこの上なく色っぽい。


だが、星良の潤んだ瞳を見てハッとした。


もしこのまま欲望の赴くまま星良を抱いてしまったら、間違い無く星良を苦しめる事になる。


星良を受け入れる事が出来ないこの状況で、無責任にお前を抱くことは…罪だ…
今はまだ、星良を抱く訳にはいかない。


しかし、深まるキスに俺の思考は麻痺寸前。


もう…「…限界だ」


これ以上、星良に触れていたら強引に奪ってしまいそうで怖くなり、慌てて体を離す。名残惜しい星良の体温。もう、どうにかなりそうだった。


しかし、必死で平静を装い立ち上がった俺は、月曜日に社長室に行くようにとだけ告げると、星良の部屋を出た。


高ぶる気持ちは、もう抑え切れない。


そして、冷たい夜風に吹かれながら俺は決心したんだ。


離婚を…


安奈に全てを話し、星良と一緒になろうと…


だか、部屋に戻ると安奈の姿はどこにも無く。ダイニングテーブルの上に一枚のメモを見つけた。


《2、3日、友達の家に泊めてもらう。安奈》


何考えてんだ…あのバカ。プチ家出ってヤツか?


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