涙と、残り香を抱きしめて…【完】
パタン…
静かに星良の部屋の扉が閉まる。
一人残された俺は、まだこの現状を受け入れられないでいた。
俺は自惚れていたのかもしれない。
どんなに冷たく突き放しても、星良の心が離れる事は無いと…
例え、成宮と付き合っても、俺を忘れる事は無いと…
「とんだ茶番だな…」
俺と星良は、もうとうの昔に終わっていたんだ。
自分の部屋の扉を開けると、俺の心の中と同じ静寂に包まれた闇が広がっていた。
結局、俺は星良も安奈も、何より大切に想ってきた2人を失ったってことか…
中途半端な気持ちで欲張った俺が悪かったんだ。
自業自得ってヤツだな。
そう思うと、情けない自分に無性に腹が立ち玄関の壁に拳を叩き付けていた。
遅すぎた…何もかも…全て…
その時、携帯がメール受信を知らせるメロディーを響かせる。
リビングの明かりを点け、携帯を開くと、そこには素っ気ない短い文章が綴られていた。
《安奈に話しは聞きました。離婚届を送ったので、提出したら連絡して》
アイツらしいな…まるで他人事だ。
思わず笑いが込み上げてくる。
ついさっきまで、何より欲しかったモノ。
しかし、今の俺にとっては、もうどうでもいいモノ。なんの価値も無いただの紙きれになってしまった離婚届。
「星良…」
俺がお前にしてやれる事は、星良が幸せになる事を祈る他無いのか?
長過ぎた恋の終わりは、あまりにも呆気なく。そして残酷なモノだった。