涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そして…2日後、白い封筒が郵送されてきた。
離婚届か…
中身を確認する事無く、その封筒をダイニングテーブルの上に投げ捨てる。
「はぁーっ…」
仕事終わりに飲むビールが、こんなに不味いと思ったのは初めてだ。
なぜか、やたら苦味だけが口に残り爽快感が全く無い。
それはまるで、俺の心情そのもの…って感じだった。
あれから色々、考えた。
いや、考えたくなかったが、勝手に星良の顔が浮かんできて、仕方なく考えていたんだが…
やはり、星良の事を思えば、このまま静かにアイツの幸せを願うのが一番いいのかもしれない。
バツ1で子持ち、おまけにひとまわりも年上の男より、将来を期待されている若い成宮の方がいいに決まっている。
星良が成宮を選んだんだ。
もう俺がとやかく言う事じゃない…
なんのしがらみもない気ままな一人暮らし。慣れれば一人も悪くないかもな。
そんな事を考えながら残りのビールを飲み干すと携帯が鳴った。
ディスプレーを確認して、俺は再び大きく息を吐く。
「はい…」
『専務!!明日香です』
「あぁ…。お疲れ」
『何がお疲れよ!!専務は星良ちゃんとどんな話ししたの?』
いきなり耳を劈(つんざ)く様な明日香の金切り声に顔を顰める。
『2人の事が気になって、さっき星良ちゃんに電話したら、なんだか変な展開になってるじゃない!!
彼女、専務とはキッパリ別れたった言ってたわよ。
専務が自分で話すとか言ってたから、取り合えず私は何も言わずに黙って星良ちゃんの話しを聞いてたけど、どういう事よ?』
「…明日香。その事なら、もういいんだ」
『いいって…何がどういいのよ!!』
「星良の気持ちを大切にしてやりたい。それだけだ…」
『はぁ?何それ?』
明日香は納得するどころか、益々、ヒートアップしてくる。