涙と、残り香を抱きしめて…【完】
初恋の行方《成宮蒼side》
《成宮蒼 side》
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「もう遅いぞ。そろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
「ヤーダッ!!まだ帰んないよー」
ここは、俺が東京で働く為に凛子先生の事務所が用意してくれた都心の一等地にあるマンスリーマンション。事務所からは目と鼻の先だ。
連日連夜、遅くまで仕事に追われ、ほとんど事務所とマンションとの往復の日々。
久しぶりに東京に戻って来たが、気晴らしに飲みに出る事もままならない。
だが、最近は仕事も徐々に落ち着き、早く帰れる様になってきた。と思っていたら、仕事が終わる頃を見計らって俺を待ち伏せするヤツが現れた。
…安奈だ。
今日も俺が帰ると、部屋の扉の前でニコニコしながら待っていた。
「ねぇ、もうデザインの方は終わったの?」
「あ、あぁ…。今は仮縫いの段階だ」
「そう。もうすぐ完成だね。蒼君がデザインしたドレス楽しみ~」
若さ溢れるキラキラとした笑顔を俺に向け、持参したチーズケーキを旨そうにほうばっている。
まさか大学を休学してまで東京に来るとはな…
俺は複雑な心境で安奈を眺めていた。
あの日…
俺がグランのスパイだという事がピンク・マーベルの社長達にバレ、何もかも終わりだと悟った俺は自暴自棄になり、どうしていいか変わらず、とにかく一人になりたくてビジネスホテルに身を隠した。
取り合えず凛子先生には迷惑を掛けた事を詫び、一度、会う事になったが、俺の気持ちは晴れず、悶々とした時間を過ごしていた。
すると、深夜に突然、意外な訪問者がやって来たんだ。
それが、安奈だった…
缶コーヒーを2本握りしめ大粒の涙を流していた。
「何しに来た?」そう聞く俺に、安奈はしゃくり上げながら「蒼君とコーヒーが飲みたくて…」なんて、必死で笑顔を作っていたっけ…
俺の居場所は凛子先生に聞いたそうで、なぜ俺がこんな所に居るのか…その理由も知っている様だった。