涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「理由がなんであれ、許せなかったんだよ。
それから蒼君を憎み、そして思ったの。
やっぱり、私が頼れるのは仁君しか居ないって…
だから余計に仁君への独占欲が強くなっていったんだと思う。
あの時のあたしは、蒼君より仁君だった。
星良さんと別れないでって脅す様な言い方したのも、仁君の方が大切だったから。
でも、蒼君のやってた事が仁君にバレて、蒼君が居なくなったって聞いて…
凄く焦った。
そして怖くなったの。
蒼君が…死んじゃうんじゃないかって…」
「俺が?自殺すると思ったのか?」
まさか安奈がそこまで考えていたとは思わなかった。
「だって、デザインの事をあんなに熱く語っていた蒼君が、デザイナー辞める事になったらどうなるんだろうって心配になって…」
「安奈ちゃん…」
「その時、気付いたんだ…
やっぱり、あたし…蒼君の事が好きなんだって」
けがれの無い澄んだ瞳に見つめられ、素直に安奈が愛しいと思えた。
だがそれは、一人の女性に対する愛情とかでは無く。
あくまでも妹を思う兄の様な感情だった。
安奈の体を引き寄せ頭を撫でてやると、嬉しそうにはにかかむまだ幼さが残る横顔。
それがまた可愛かった。
だが…
「あたし…星良さんに酷い事言っちゃった」
その一言で、その感情が別の感情へと変わっていく
「星良に…何を言った?」
「蒼君がこんな事になったのは、星良さんのせいだって…
蒼君じゃなく星良さんが居なくなれば良かった。
そう言った」
「…どうして、そんな事を…」
「本気でそう思ったからだよ。
あの人さえ居なかったら…」
この時の俺は、安奈の気持ちより、星良の気持ちを考えていた。
安奈に責められ、星良はどんな気持ちだったのか?
もう俺に愛想を尽かしたんじゃないか?
不安な気持ちが俺の胸を締め付ける。
「ねぇ、蒼君。
お願い…あの人と別れて」
「それは、出来ない」
「なぜ?」
「俺は、星良を愛しているんだ…」