涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そう言えば、安奈も諦めると思った。
だが安奈は諦めるどころか「それでもいい」などと言い。
「待ってる…あたし、ずっと待ってるから…
蒼君があたしを好きになってくれるのを…」と全く諦める気配が無い…
変に期待させるのは安奈の為にも良くないと、俺は星良への正直な想いを彼女に伝えたが、安奈の気持ちは変わらなかった。
「明日、もう一度、会ってくれる?」
「明日は凛子先生と約束がある」
「じゃあ、ママと会った後でいいから。お願い」
すがる様な眼で懇願する安奈を見てると、断り切れず頷いてしまったが、俺の気持ちは決まっていた。
すまない。安奈…お前の気持ちには応えられない。
大学の友達の家に泊めてもらうと言う安奈を見送りながら、悪いと思いつつ既に俺の頭の中は星良の事で一杯だった。
黙って逃げた卑怯な男を、アイツは許してくれるだろうか?
以前と変わらず愛してくれるだろうか?
気になって仕方無いくせに、それを確かめる勇気が無い情けない俺。
眠れぬ夜を明かした…
すると次の日の朝
思いもよらぬ事が起こったんだ。
星良がホテルに来た。
まさか、俺と別れる為にここに?
一瞬、体が硬直する。
だが、予想に反して星良は俺に抱き付き、また一緒に仕事が出来ると喜んでいる。
本当に、これが星良の本心なのか?
星良の忠告を無視し、調子に乗って好き勝手な事をした俺を許してくれるのか?
部屋に入ると俺はベットに座り、眼を伏せる。
そんな俺を優しく励ましてくれていた星良だったが、急に低い声でボソッと言った。
「ねぇ…誰か…ここに来た?」
その言葉を聞いた俺は、安奈とのキスが脳裏を過りドキリとする。
「いや…誰も来てない」
慌てて否定して顔を上げると、星良の視線の先には、昨夜のあの缶コーヒーが…
これが"女の感"ってヤツか…と寒気がした。