涙と、残り香を抱きしめて…【完】
しかし星良は何を思ったか、俺の隣に座り、ゆっくり唇を重ねてきたんだ…
「大好きだよ。だから、元気出して?」
その言葉を聞いた俺は、やっと確信出来た。
まだ、愛は消えていないという事を…
嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて
夢中で星良を抱きしめていた。
いつもより激しく。そして荒々しく彼女の体を求めた。
やはり、俺は星良が好きだ。
お前以外の女なんて考えられない…
そして、星良の口から思い掛けない嬉しい言葉を聞く事になる。
「結婚…しようよ」
あの時の星良の優しい眼差しを、俺は一生、忘れないだろう…
しかし…厄介な事に安奈がストーカーのごとく俺に付きまとう。
別に遊びに来るのはかまわない。ただ、この事が星良にバレて、誤解されるのが嫌だった。
あの不意打ちのキス以後、後ろめたい事は何もしていなが、やはり星良が知れば気分のいいモノじゃないだろうからな…
そして、水沢専務と凛子先生が夫婦である事、その娘が安奈だという事実を、俺は未だ星良に言えずにいたんだ。
翌日
ここは、マダム凛子デザイン事務所
今日の凛子先生は、やけに機嫌がいい。
普段なら、どんな小さなミスも許さない厳しい人なのに、笑顔で「いいわ、いいわ」なんて言っている。
おまけに3時のおやつだと言って、有名パテシエがやっている店の人気スイーツが出てきたりした。
昼から打ち合わせで来ていたファッション雑誌モードジャパンの編集者、工藤さんは何か知っている様で、そんな凛子先生をニヤニヤしながら見つめている。
「工藤さん、今日の凛子先生楽しそうですね。
何かいい事あったんですか?」
「えっ?うん。まあね…
いい事があったって言うより、これからあるって言った方が正解かも」
「はぁ…これから、いい事ですか?」
「ふふふ…。
そうよ。今日ね、マダム凛子の彼氏がパリから来るそうよ」