涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「えっ…?凛子先生の彼氏…ですか?」


マジかよ?そんなの初耳だ。
水沢専務や安奈は、この事を知ってるんだろうか?


それより、こんなシークレット情報を簡単にバラして大丈夫なのか?とこちらの方が心配してしまう。だが、そんな俺を気にする事無く工藤さんは話し続ける。


「あら、成宮君は知らなかったの?
マダム凛子の彼氏はフランス人で、ファッションショーのプロデュースなんかしてる人よ。

今回の企画にも総合プロデューサーとして参加する事になったの」

「はあ?総合プロデューサー?」


嘘だろ?この企画には水沢専務も関わっているんだぞ。
不倫相手を参加させるなんて、凛子先生は何考えてるんだ…


「そんな…いいんですか?」

「別に問題無いと思うけど?」

「いや、問題大ありですよ!!
凛子先生には旦那が居るじゃないですか!!」


慌てふためく俺に、工藤さんがニヤリと笑い言う。


「そうね。一週間前まではね。でも、今の彼女は独身よ」

「えっ…。独身?」

「そうよ。マダム凛子は離婚したの」

「なっ…離婚?」


それが本当なら、あの安奈が離婚に同意したという事か?
たとえ形だけとは言え、あんなに"家族"に執着していた安奈が…


ほぼ毎日、俺のマンションに来ているのにそんな事、一言も言ってなかったぞ…


その時、事務所のドアが開き、長身の男性が入ってきた。


金髪の髪を後ろで結び着ているスーツのブランドは、もちろん"マダム凛子"


「リンコ~」

「まぁ!!ピエール!!早かったのね」


人目も憚らず熱い抱擁とキス。
見てるこっちが恥ずかしくなる。


しかし、それより驚いたのは、彼が想像以上に若かった事だ。
どう見ても30代前半


「ほら、噂をすればなんとやら…彼氏の登場よ」

「あ、あぁ…。でも、あの彼氏若く見えますけど、いくつなんですか?」


すると、工藤さんが凄くいやらしい眼で俺に耳打ちしてくる。


「年はね…34歳。マダム凛子より6つ年下よ」


ゲッ…34歳?…俺と同い年かよ!!


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