涙と、残り香を抱きしめて…【完】
微妙な雰囲気のまま、ご機嫌な凛子先生のお伴で六本木のレストランに来た。
メンバーは、凛子先生と彼氏のピエール。そして工藤さんだ。
予約してあった個室に通され、まずは乾杯。
ここでも相変わらずラブラブな2人。
全く…眼のやり場に困る。
仕方が無いので、眼の前の料理をひたすら口に運びワインを飲んでいた。
ほろ酔い気分の凛子先生は、何時になくじょう舌で、ピエールに寄り添いながら喋り続けている。
「成宮はピエールに会うのは初めてだったわね。
彼は優秀なプロデューサーよ。
今回のショーでも、素敵なサプライズを用意してくれてるの」
「へぇ~どんなサプライズですか?」
「ふふふ…。知りたい?」
「はい。是非…」
ピエールの顔をチラッと見た凛子先生が、まるで少女の様にニッコリ笑いながら小声で言う。
「結婚式よ」
「結婚式?ですか?
まさか、凛子先生の…」
「もぉ~成宮ったら、やぁ~ねぇ~。私の訳ないじゃない。
私の親友の結婚式よ」
凛子先生が言うには、古い友人で最近、結婚した人が居るそうだ。
まだ式を挙げてないので、ショーのラストにサプライズとして本当の結婚式をするらしい。
「確かに凄いサプライズですが、素人を出すなんて…大丈夫なんですか?」
「バカね!!私の大切なショーに素人なんて出す訳ないじゃない。
花嫁は、元トップモデルよ」
すると、隣の工藤さんが俺の肩を叩く。
「その人はね、島津さんにモデルのレッスンをしてくれてる人なの」
「星良の先生なんですか?」
「そう。だから、モデルとしは申し分無いって事よ」
星良の名前が出て、俺はあの事を思い出した。
「あの、話しは変わりますが…
凛子先生に報告があるんです」
「あら、何?」
「実は、この企画が無事終わったら、結婚するつもりです」
「結婚?誰と?」
凛子先生のこの質問に、思わず苦笑してしまった。
星良と付き合っている事は、既に報告済み。
他に誰が居るって言うんだよ…
「もちろん、島津星良です」