涙と、残り香を抱きしめて…【完】

ゴシゴシゴシ…


「い、痛い…じ…ん」


タオルで思いっきり顔を擦られる。
でも…何か変…


「うぅっ!!仁!!
このタオル…臭い」

「そうか?洗面所の床に落ちてたヤツだけど」

「洗面所の床?
……ゲッ!!それって、雑巾じゃない!!ウエッ!!」

「ほーっ、これ、雑巾だったか?」


すっとぼけてくれちゃって…
絶対、わざとだ!!


「もう!!信じらんない!!」


私は慌てて起き上がり
洗面所に顔を洗いに行こうとするけど
まだ足元が覚束(おぼつか)ない。


後ろから「歯も磨けよー」
と、仁の声


何度も壁に激突しながら
なんとか洗面所に到着し
必死で顔を洗う。


そして、鏡に映るすっぴんになった自分の顔をマジマジ見つめ
ため息一つ


酷い顔してるな…


28歳になった頃から
時々、そう思う。
私も、もう若くない…


だから不安になる。
このままでいいのかな…って


でも、好きだから…
仁が誰よりも好きだから…
怖くて聞けない。


あなたの本当の気持ちを…


私と専務の水沢仁との付き合いが始まったのは、8年前。
私が20歳、仁が32歳の時


今思えば
あの頃の私はまだ若くて
夢を追いかけ輝いていた。


そんな私を、仁は『素敵だ』と言ってくれたんだ…


でも、今の私はどうなんだろう…
仁にとって、今の私はあの頃と変わりなく『素敵』な存在なんだろうか?



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