涙と、残り香を抱きしめて…【完】
自分でも、何を話したか覚えていない。
ただ、ひたすら仁に助けを求めていた様な気がする。
程なく仁が病院に現れ、その姿を眼にした私はやっと安堵し、彼にしがみ付き泣きじゃくってしまった。
緊張の糸が切れ、全身の力が抜けてしまった私の体を支えてくれているのは、仁の逞しい腕。
「いったい、何があったんだ?
桐子さんの容態は?」
「分からない。全然、分からないの…」
「そうか…取り合えず香山さんには俺から連絡しておいた。
まだ家に居たから、すぐ来ると思うが…」
そう言いながら、ゆっくり廊下の長椅子に腰を下ろすと私の背中を優しく擦ってくれる。
「島津…大丈夫か?」
「…はい」
この時ほど、仁が側に居てくれて在り難いと思った事はない。
暫くすると、息を切らし香山さんがやって来た。
「…桐子は?」
「今、処置してます」
「そうか…。星良ちゃんには迷惑掛けてしまったね。申し訳ない」
「そんな…私は何も…」
すると、ICUの自動ドアが開きマスクを外しながら医師が出てきた。
それを見た香山さんが医師に駆け寄り、緊張した面持ちで桐子先生の容態を訊ねている。
「香山さん、そろそろ手術した方がいいようですね」
「悪いんですか?」
「腫瘍が大きくなってます。これ以上放置すると、体の麻痺も出てくる可能性がありますね」
「…そうですか」
2人の会話を聞いた私と仁は息を呑み無言で顔を見合わせた。
手術?腫瘍?麻痺?
なんなの…ソレ…
「詳しいお話しは、こちらで…」
医師に促され、ICU横のドアの中に入っていく香山さん。その背中がやけに小さく見え、私の胸は再び不安で一杯になった。