涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あぁ、凛子ちゃんに本当の事は言わないでくれと頼まれてたんだよ。
今まで黙っててすまない」
「…どうして?親友なのに、どうして話してくれなかったの?」
マダム凛子が納得いかないとばかりに香山さんに詰め寄る。
「親友だからこそ…だ。
君には余計な事に惑わされず、仕事をしてほしいと思っていたからだよ」
香山さんの言葉を聞いたマダム凛子の眼から、大粒の涙が零れ落ちた。
「桐ちゃんは、バカよ…
そんな心配してもらわなくても、仕事くらいちゃんと出来たのに…」
すると、隣に座っている仁がマダム凛子にハンカチを手渡しながら「それは、どうかな?」と呟いた。
「えっ?」
「君は強い様に見えて、とてももろい所がある。
それを桐子さんは見抜いていたんだよ」
さすが元カレだな…
仁はマダム凛子の事はなんでも分かってるんだ…
「桐子さんの手術は明日だ。
もう、ショーには出れない。
ショーの一番の目玉、結婚式が出来なくなるんだぞ…
どうする?」
「こんな時に、そんな話し…」
「そんな話し?こんな時だからこそだろ?
だから桐子さんは君に病気の事を言わなかったんだよ。
今、桐子さんが一番心配してる事は、おそらく自分が出られなくなったショーの事…」
仁の話しを聞いていた香山さんも大きく頷く。
「そうだよ。桐子の事はいいから、凛子ちゃんはショーを成功させる事を考えてほしい。
それが桐子の為だと思って…」
言葉を失い下を向くマダム凛子の肩を叩き、今度は工藤さんが口を開く。
「あなたがそんなでどうするの?ショーを成功させて、桐子さんを安心させてあげましょうよ。
…でも、困ったわね…。
メインの結婚式が出来なくなるなんて…
既に、その旨記載した招待状を各方面へ送付済みだし
今になって変更は出来ない。
本当の結婚式だという事で注目されてたのに…」
全員が落胆の表情を見せる中
仁が何かを思いついた様に顔を上げた。
「待てよ…まだ、手はある」