涙と、残り香を抱きしめて…【完】
仁と香山さんは笑顔だったけど、マダム凛子と工藤さんは押し黙ったままだった。
いくら仁や香山さんが薦めてくれても、マダム凛子が納得してくれなかったら話しにならない。
「あの…やはり、私じゃダメですか?」
恐る恐る聞いてみる。
「いえ…いいわ。島津さんに任せます」
一見、納得した様にそう言ったマダム凛子だったが、その顔は暗く沈んでいた。
「成宮には、私から連絡するから…」
「はい」
しかし、思いもよらぬ展開。
あの真っ白な教会で式を挙げたいという願いが叶ってしまった。
でも、喜んでばかりはいられない。
責任重大だ…
そして、桐子先生の状態も落ち着いたという事で、マダム凛子と工藤さんはホテルへ。私と仁は会社に戻る事になった。
また、仁の車で2人っきり…
「来てくれて、有難う」と、取り合えずお礼を言ってみる。
「いや…それより、さっきは島津の気持ちも聞かず、強引に話しを進めて悪かったな。
他に方法が無かったんだ…すまない」
「気にしないで…下さい」
そう…
仁が大切なのは、仕事。
それだけ…
「お前の花嫁姿…思ったより、早く見られそうだな」
そう言って、ニッコリ笑う仁。
「…まさか、ホントに楽しみにしてるの?」
「あぁ…してるよ」
仁って、変わってる。
別れた女の花嫁姿が見たいだなんて、どうかしてるよ。
「そんな事、安奈さんの前で言っちゃダメよ」
「…分かってるさ」
「そう言えば…最近、安奈さんの姿見ないけど…元気にしてるの?」
「んっ?あぁ…」
「そうだ!!安奈さんの花嫁姿も楽しみでしょ?」
「…そう…だな」
歯切れの悪い返事
もう離婚して誰にも遠慮する事無いんだから、もっと嬉しそうな顔すればいいのに…
「なんなら、ショーの結婚式、専務と安奈さんに譲ってもいいですよ」
半分冗談でそう言ったのに、仁は少しも笑わず真顔で答えた。
「それは断る。
俺が見たいのは、お前の花嫁姿だ…」
その一言を最後に、仁は黙り込んでしまったんだ…。