涙と、残り香を抱きしめて…【完】

そして、次の日
午前中に桐子先生の腫瘍摘出手術が行われた。


当然、私も病院に行くつもりでいたのに、仁に私が行ってもなんの役にもたたないと言われ、仕方なく会社に残り連絡を待つ事にした。


でも、桐子先生の事が気掛かりで仕事どころじゃない。


そしてお昼過ぎ、やっと仁から電話があり手術は無事成功したと…
その言葉を聞いた瞬間、体の力が抜け、嬉し涙が溢れ出す。


良かった…。本当に、良かった…


誰も居ないオフィスで、まるで子供みたいに声を上げて泣いてしまった。


すると、再び携帯が鳴る。


桐子先生の容態が急変したんじゃないかと慌てて携帯を手に取ると、それは仁ではなく、待ちわびた人からの着信だった。


逸る気持ちを抑え、涙を拭き気持ちを落ち着かせて携帯に出る。


「もしもし…成宮さん?」

『星良…元気にしてるか?』

「うん。元気だよ。成宮さんは?」

『俺は元気さ。それより、暫く連絡出来なくて悪かった…』

「うぅん。いいの…忙しかったんでしょ?」


話したい事は山ほどあるのに、何から話していいのか分からない。


『さっき、凛子先生にショーの結婚式の件…聞いたよ。
星良は、本当にいいのか?』

「えぇ。桐子先生の為だし、何より、あの素敵なチャペルで結婚式を挙げられるなんて夢みたい。

でも、成宮さんに相談なしで勝手に決めちゃって…ごめんね」

『いや…星良がいいなら、俺は…』

「有難う!!実はね、初めの内は迷ってたんだけど、今は凄く楽しみにしてるの」


久しぶりに彼の声を聞き、私は舞い上がっていた。


「ねぇ、まだ帰って来れないの?
早く成宮さんに会って、式の事とか、色々話したいよ」

『そうだな…一週間くらいしたら、そっちに帰れると思うんだが…
何しろ、忙しくてな…

もう時間が無いから、式の事は凛子先生と相談して決めてくれていいから」

「…えっ?」


何…それ…

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