涙と、残り香を抱きしめて…【完】

結婚式だよ?
一生に一度の大切な結婚式なのよ?
それを、まるで今日の夕食のメニューを決めるみたいに『決めてくれていいから…』だなんて…


「成宮さんは、あまり楽しみじゃないみたいね」


つい、嫌味っぽくそう言ってしまった。


『あ、いや、そんな事ないよ。
星良と結婚出来るんだ。嬉しいに決まってるだろ?

でも…普通の結婚式じゃない。凛子先生のショーの一部なんだ。
それに、俺はモデルじゃないからさ、なんか…緊張しちまって…』

「あ…」


確かにそうだ…
私達の結婚式だけど、仕事でもあるんだ。


モデルの私でも戸惑っていたんだから、成宮さんはもっと困惑したに違いない。


離れてる事への不安からか、ちょっとた事でも変な風に考えちゃう。
私、イヤな女になってるかも…


成宮さんに謝り携帯を切ると、大きなため息を付く。


あぁ…自己嫌悪…


気分を変えて仕事でもしようと自分のデスクに座ると、仁が戻って来た。マダム凛子も一緒だ。


「お疲れ様です。桐子先生の手術成功したそうで、良かったですね」

「そうね。一安心だわ…
これからはショーの事に専念するから、島津さんもそのつもりで」

「はい」


マダム凛子の顔は、昨日見た弱々しい表情からいつもの凛々しい表情に戻っていた。


「まず、ショーの大まかなスケジュールからね」


デスクの上に持参したノートパソコン置き、出来あがったばかりだと言うイメージ画像を見ながらマダム凛子の説明が始まった。


あの一面の芝生が広がる中庭に、一直線に伸びるランウェイ。それはまるで、バージンロードの様に真っ赤な絨毯が敷き締められ、名古屋の街が一望出来る丘まで続いていた。


ランウェイの両端には観客席が設けられ。その後ろには大掛かりな照明灯と無数のLEDライトが散りばめられた木々が並んでいる。


そして、そのランウェイの先には、淡い色調のバラの花で模られた大きな十字架が…


「わぁ…素敵…」




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