涙と、残り香を抱きしめて…【完】
感動して、言葉も出ない…
「そして、これが夜の予想画像よ」
切り替わった画面には、宝石が散りばめられた様な夜景を背に、ライトの光に照らされキラキラ輝くバラの十字架が映し出されていた。
幻想的なその風景に、私は瞬きも忘れうっとりと見惚れていた。
「どう?いいでしょ?」
「は、はい…」
そう答えるのが精一杯だった。
「ショーが始まるのは、ある程度暗くなった午後5時から、20パターンのウエディングドレスと、同じく20パターンのカラードレスが披露されるわ。
通常のショーに比べ、ゆっくりめに進行する予定よ。
それが終わったら、いよいよ結婚式ね。
島津さんに着てもらうドレスは、私のデザイナーとしての集大成とも言える自信作。
そして、身に付けてもらう宝石類は、協賛のジュエリー会社が提供してくれた総額5千万以上の代物。
このドレスを生かすも殺すも、モデルであるあなた次第って事よ」
「あ、ああぁぁ…」
さっきまでの幸せ気分は一転、もの凄いプレッシャーだ…
マダム凛子の集大成の作品とか、総額5千万のジュエリーとか…出来れば聞きたくなかった…。
私が青ざめていると、仁が笑いながらマダム凛子の肩を叩く。
「おいおい。あんまり島津を怖がらせるなよ。
それでなくても、ヘタレなんだから…」
「なっ!!ヘタレだなんて、酷い!!」
「事実だろ?現に今、ビビってたし」
「ビ、ビビってなんか…これは、武者震いです!!」
「ほーっ!!武者震いねぇ…それは失礼」
何よ!!仁ったら、ニヤニヤしちゃって、思いっきり私の事バカにしてる。もぉ~ムカつくなぁー!!
すると、マダム凛子が妙な事を言ったんだ。
「あら、意外と仲良しじゃない」
「へっ?」
どういう意味?
「あなた達、もっとギクシャクしてると思ったけど、そうでもないのね」