涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「ギクシャクねぇ…」
そう言って、仁がケラケラ笑ってる。
まさかマダム凛子が私と仁の関係を知ってるなんてないよね…
恐る恐る「どういう事ですか?」と訊ねてみた。
でも、2人は何も答えてはくれず、仁は話しを逸らす様に「そうだ…島津に渡す物があったんだ…」なんて、自分のビジネスバックの中を物色しだした。
「ほら、持ってけ」
「あ…これは…」
「ショーの特別招待状だ。お前の結婚式だから親御さんとか、招待したい人が居るだろ?
残念ながら枚数は10枚程度しかない。だから、本当に呼びたい人に絞ってくれ」
手渡された招待状を見て、本当に結婚式をするんだという実感が湧いてきてた。
そうなんだ…
お母さん達にも連絡しなきゃ…
突然、結婚するなんて言ったら驚くだろうな…
後は、明日香さんと高校時代の友達。
それと、お世話になった人とか…
夢中になって指を折って人数を数えていると、仁とマダム凛子が体を寄せ合い何かボソボソ話しているのに気付いた。
この2人…なんか怪しいな…
まさか、久しぶりに再会して焼けぼっくりに火が点いちゃったとか?
いやいや、それは無いよね。
仁には離婚してまで一緒になりたい安奈さんが居るし、マダム凛子にも彼氏が居るって前に話してたし…
そんな良からぬ想像をしていると、オフィスのドアが開いた。
「失礼します」
聞き覚えのあるその声に、まさかと思い振り返ると…
「明日香さん!!それに、新井君も…どうして、ここに?」
ランジェリー企画を下ろされてから、同じ社内に居てもほとんど会う事が無かった2人。
新井君は「水沢専務から、ご指名を受けましてね~」なんて、天下を取った様なドヤ顔で得意げに笑ってる。
「ご指名?なんの事?」
「本日、西課長と私、平社員の新井が、デザイン企画部からブライダルプロジェクトチームに移動する事になりました!!」
えっ…
キリリと敬礼する新井君をスルーして、明日香さんに駆け寄る。
「ホントなの?明日香さん」