涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「本当よ。これから星良ちゃんが忙しくなるから、フォローしてやってくれってね。
専務ったら、優しいとこあるじゃない」
明日香さんがニヤリと笑い仁の顔を覗き込む。
「なんだよ…変な勘ぐりはやめろよ。
今までこのチームに居た女子社員は、販売部と総務からの応援で来てもらってた娘だから、こっちの仕事に慣れてなくてな。
デザイン企画部も、ランジェリー企画が軌道に乗ったし、島津もお前達の方が気心も知れててやりやすいと思ったからだよ」
仁が早口でそう言うと、明日香さんが私の耳元で「なんだかんだ言っても、専務は星良ちゃんが心配なのよ」と、またニヤリと笑う。
すると、シュンとしてた新井君が大声を上げた。
「ま、まさか…この方は…マダム凛子先生ですか?」
すっかりくつろいでタバコを吸ってたマダム凛子に直角にお辞儀をすると、無謀にも握手を求めてる。
「あ、あの、デザイン企画部から来ました。
新井満って言います。
新井の"あら"は新しいの新で、"い"は井戸の井で…」
でも、マダム凛子は新井君には興味を示さず「自己紹介はけっこうよ」と立ち上がった。
あぁ…新井君…撃沈…
「水沢専務、私は今から工事の関係者と打ち合わせしてくるから、後は宜しくね」
「あぁ、でも、一人で大丈夫か?」
「やぁね。大丈夫よ。でも、夜一人で寂しくなったら付き合ってもらうかも…」
「それは、仕事か?プライベートか?」
「ふふふ…。さあ、どっちかしらね?」
意味深な言葉を残しマダム凛子がオフィスを出て行くと、新井君の冷ややかな視線が仁に向けられた。
「あのぉ~…専務」
「なんだ?」
「専務とマダム凛子先生って…デキてるんですか?」
わわっ!!いきなり直球ストレート!!
新井君って、時々、予期せぬ事を言ったりするんだよね…
でも、何気に興味ある。
新井君と明日香さんと3人でジッと仁を見つめると、仁が大真面目な顔をして言った。
「デキてた事もあったかな…」