涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「うおぉぉぉーーーっ!!!」
雄叫びを上げる新井君と、絶句する明日香さん。
意外だ。マダム凛子が元カノだって事、あっさり認めちゃった…
それから新井君のマシンガンの様な質問が仁に浴びせられたが、仁はそれ以上、何も語らず、不完全燃焼の新井君は悶々としいた。
仕事が終わり久しぶりに飲みに行こうと明日香さんと新井君に誘われたけど、ショーに招待する人に急いで連絡しなきゃいけないからと断り、マンションに帰って来たけど、気が重い…。
まずは両親だよね…
ここ数ヶ月、電話もなかった娘から突然、結婚式の話しを聞かされてお母さんはパニくり、お父さんは激怒。
納得してもらうまで3時間掛った…
いや…正確には、まだ完全に納得してはいないだろう…
それから高校時代の友達に連絡し、残りの招待状は一枚。
他にお世話になった人は…と考えていて、ある人物の顔が浮かんだ。
「佐々木さん…」
佐々木さんは、私が高校を出てすぐお世話になったモデル事務所の女社長だ。
彼女がピンク・マーベルの下着モデルのオーディションを受けるよう薦めてくれなかったら、今の私は無かった。
感謝してもし切れない。大切な恩人だ…
グズだった私が、マダム凛子のショーに出るって言ったら、佐々木さんビックリするだろうな…
そうだ!!明日は土曜日で会社も休みだし、桐子先生のお見舞いの前に会いに行ってみよう。
その夜は、昔の事が色々思い出され、なかなか寝付けなかった。
翌日、ワザと連絡せず佐々木さんのモデル事務所に向う。突然行って驚かせてやろうという作戦だ。
地下鉄の「伏見(ふしみ)駅」で降り、地上に出て歩く事10分。
懐かしいビルが見えてきた。
ここが、私の原点。
お土産に買った佐々木さんが大好物のとらやのういろうを胸に抱き、エレベーターのボタンを押す。
チーン…。
到着音と共に扉が開き乗り込もうとすると、中から女性が降りてきて、すれ違い際に肩が触れた。
慌てて顔を上げ「すみません」そう言った瞬間、その女性と眼が合いお互いの動きが止まった…
「あなたは…」