涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「理子…さん」
「あら?ピンク・マーベルの部長さんじゃない。
あ、ごめんなさい。降格されて、今は課長さんだったわね」
久しぶりに会ったっていうのに、いきなり嫌味たっぷり。ホント、嫌な女。
スルーしてエレベーターに乗ろうとした私に、更にしつこく話し掛けてくる。
「一流企業の課長さんが、こんなとこで何してるの?」
「…昔お世話になった人に挨拶に来たのよ」
「それ、もしかして…佐々木社長?」
「えっ?あなた、佐々木さんを知ってるの?」
「知ってるも何も、私の所属事務所の社長よ」
知らなかった。理子が佐々木さんの事務所に入ってたなんて…
「ところで課長さん、パパに聞いたんだけど、デザイナーの成宮さんと結婚するんだって?」
あぁ、そうか。理子の父親はピンク・マーベルの大株主で仁や社長の先輩だったんだ…
「えぇ。もうすぐね」
「ふーん…。成宮さんと課長さんがねぇ~
意外なカップル誕生ね。笑えるぅ~」
「…ソレ、どういう意味?」
相変わらず人をバカにした様な物言いにカチンとくる。
「あ、そうだ!!最近、この近くに美味しいパンケーキのお店が出来たのよ。
私、朝ご飯食べてないからお腹空いちゃって~
一人で行くのもなんだし、付き合ってくれない?」
「はぁ?なんで私が…」
そうよ。別に友達でもなんでもない理子と、どうして呑気にパンケーキなんか食べなきゃいけないのよ!!
彼女の誘いを無視してエレベーターの扉を開けようとした私の手を、理子が掴んだ。
「何するの?離して!!」
その手を振り払おうとした私が見たものは、ゾクッとするほど気味の悪い理子の笑顔だった。
「結婚のお祝いに、とっておきの話し教えてあげる」
とっておきの…話し?