涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「そうよ。仁さんったら、私に土下座して頼んできたわ。
全て上司である自分の責任だから、アンタを辞めさせないでくれってね。
仮にも、一部上場の企業の専務が女の為に簡単に土下座するなんて、どうかしてるわ」
仁が…私の為に、理子に土下座したって言うの?
「ねぇ、私がランジェリー企画のモデルになった事も問題になったの?」
「何言ってるの?大問題でしょ!!アンタをモデルとして認めたのは自分だって、仁さんハッキリ言ったわ。
で、自分は責任を取らされて取締役を降ろされちゃってね。ホント、バカみたい」
そんな…
仁が取締役から降ろされた原因は、私?
「そこまでして庇った女なのに、他の男と結婚する事になるなんて…
仁さんもとんだピエロね。
つくづく可哀想な人だわ。
でもまぁ、彼にもいい人が居るみたいだし、結果的には良かったのかもね。
こんな偉そうでエッチ下手の女より、よっぽどいいかも」
その後も、理子は私の悪口を言いたい放題言っていた様だが、そのほとんどが私の耳には届いていなかった。
今になって知った真実
あの時、仁は私がモデルになる事を最後まで反対してた。
それは、私を守る為だったとしたら…
私は、大きな誤解をしていたのかもしれない…
でも、どうして何も言ってくれなかったの?
別に隠す様な事じゃないじゃない。
今、こんな事を聞いても、もうどうする事も出来ない。
理子は私に恨みをぶつけスッキリしたのか、パンケーキを完食するとサッサと店を出て行った。
でも私は、暫く立ち上がる事が出来ず、呆然と宙を見つめていたんだ。
やっと店を出たのは、それから一時間後。
佐々木さんに会う気になれず、そのまま地下鉄の駅へと歩き出す。
混乱する頭…
乱れる心…
後悔の念と、仁に対する懺悔(ざんげ)の気持ちで一杯だった。