涙と、残り香を抱きしめて…【完】

明らかになる真実


本当は、もうマンションに帰りたい気分だった。
でも、桐子先生の事が気掛かりで、取り合えず病院に向かった。


ナースステイションで確認すると、桐子先生はまだICUに入っていて面会は出来ないとの事。


容態は安定してると聞き、ホッとして帰ろうとすると工藤さんが現れた。


「おや?島津さんじゃない。来てくれたの?」

「はい。でも、面会は無理みたいなので帰ろうと思って…
工藤さんもお見舞いですか?」

「まあね。マダム凛子が忙しいから、代わりに桐子先生の様子を聞きに来てるのよ」

「そうですか」

「良かったら、ちょっとお茶でもどう?」

「あ、はい…」


気が進まないけど…仕方ないか…


工藤さんとあの一階の喫茶店に入り、向かい合って座る。


初めは桐子先生の病状や、ショーの話しをしていたが、いつしか話題は工藤さんの昔話しに変わっていた。


マダム凛子と工藤さんとの出会い。


「以前にも話したわよね」

「はい。工藤さんが大学のショーを取材に行って、マダム凛子のデザインした作品に惚れ込んで雑誌で紹介したって話しですよね」

「そう…実はね、あの話しには続きがあるのよ」

「続き…ですか?」


カップに残っていたミルクティーを飲み干し、工藤さんが俯き気味に話し出す。


「私の眼が釘付けになったドレス…そのドレスのデザインをしたのは、マダム凛子じゃなかったのよ」

「はぁ?どういう事ですか?」


今までボンヤリと工藤さんの話しを聞いてた私。でも彼女の思いもよらぬ言葉に眼が覚めた…って感じだ。


「そのドレスを見て、誰がデザインしたモノかとパンフレットを確認したの。

するとね、そのドレスは2人の学生の共同作品の中の一つで、タイトルが『RINKO』になってた。

で、そのドレスが披露された後、デザインした学生がステージに上がり、観客の割れんばかりの拍手に応えていた。

とても可愛い女子学生だっわ…
だから私は、そのドレスをデザインしたのは、その女子学生だと思ったのよ」

「それが…マダム凛子?」









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