涙と、残り香を抱きしめて…【完】
仁が辛かったのは間違い無いだろうけど、きっと、マダム凛子も辛かったんだ…
そして、工藤さんも…
そんな事を思いながら俯いたままの工藤さんを見つめる。
「でも…工藤さん、どうしてまだ会って間もない私に、こんな話しを?」
すると、ゆっくり顔を上げた工藤さんが私を見て、苦笑いを浮かべながら言った。
「さあね…どうしてかしらね。
18年間、誰にも言えず過ごしてきたから、誰かに聞いて欲しかったのかもしれないわね。
島津さんとは、確かに短い付き合いだけど、あなたになら言ってもいいかな…なんて思っちゃったの。ごめんなさいね」
「いえ、そんな謝らないで下さい。
この事は、誰にもいいませんから」
そう、工藤さんの気持ちは理解出来る。
18年も沈黙を守ってきたんだもの
誰かに全て吐き出して楽になりたいと思うのも無理はない。
「有難う…」
そう言った工藤さんが、何かを思い出した様に顔を上げた。
「そう言えば…あれから成宮君とは連絡ついたの?」
「あ、はい。彼から電話がありました。
でも、相変わらず忙しいみたいで、まだ暫くは会えそうにないですね」
今度は私が苦笑いを浮かべる。
すると工藤さんが手を叩き
「成宮君がこっちに来れないなら、島津さんが会いに行けばいいじゃない」なんて言うからビックリ。
「私が…ですか?
でも、仕事が忙しいのに、私が行ったら迷惑じゃないかな…」
「そんな事ないわよ!!それに、もうすぐ成宮君の誕生日でしょ?
それを口実に東京に行けば?」
「誕生日?」
その時、初めて気付いた。
私、成宮さんの誕生日知らなかった…
「まさか、成宮君の誕生日知らないとか?」
「あ、はい…。恥ずかしながら…」
工藤さんが呆れた様に笑ってる。
「結婚相手の誕生日を知らないなんて信じられないわね。
成宮君の誕生日は、6月16日よ。
この前、彼が言ってたから間違いないわ」
「そうですか…6月16日…」
「来週の金曜日じゃない?
仕事が終わってから行けば?
次の日はお休みだし、泊まれるわよ」
「はぁ…」