涙と、残り香を抱きしめて…【完】
……まさかね。
私ったら、何、考えてんだろう。
いくらなんでも、そんな事…
仁とマダム凛子が別れたのは十数年前の話しなのよ。仁がそんな昔の恋を今も引きずっているなんて…そんなロマンチックな人じゃないよね。
あ~ぁ、バカバカしい。
自分の豊かな想像力に呆れ笑ってしまった。
そんな事より、成宮さんの誕生日だ。プレゼントだって考えなきゃだし、当日の事だって…東京に行くべきか…行かざるべきか…迷うな。
と、グズグズしていたら、あっという間に木曜日。
理子と工藤さんに仁の話しを聞いてからというもの
私は仁の事が気になって仕方ない。つい、無意識に彼の動きを眼で追ってたりしてる。意識しまくりだ。
しかし、仁に気を取られている暇はない。
明日は成宮さんの誕生日
なのに私の気持ちは、まだ揺れていた。
取り合えずプレゼントのネクタイは買った。ベタ過ぎると思ったけど、無難なのも確か。初めてのプレゼントだもの。このくらいが丁度いいよね。
でも、そのネクタイをどうやって渡すのよ?
宅急便で送るって言ったって、もう間に合わない。
やっばり、行くしかないか…
そんな事を思いながらため息をついてると、新井君が私の肩を叩いた。
「島津課長!!今日は専務直帰ですから、定時で終わりましょうよう~」
「なんなの?その甘ったるい声は?」
「いいじゃないですかー!!ここ毎日、雑用で残業続きだったし、専務が居ない時くらい早く終わって3人で飲みに行きましょうー!!」
擦り寄ってくる新井君の頭を資料でパコンと叩くと、隣の席の明日香さんまでがノリノリで言ってくる。
「それ、いいわねー!!
たまにはパァーっと行こうか?」
「はいっ!!ねぇ~行きましょうよ~島津課長」
全く、困った人達だ。
でも、この前も断ったし、一度くらいは付き合ってあげないとな…
「仕方ないわね。今日だけよ」