涙と、残り香を抱きしめて…【完】

どこの店に行こうかと相談しながら会社のビルを出る。


「なんかさぁ~毎回、居酒屋って言うのもねぇ…
どっか落ち着いたいい店知らない?」


明日香さんが大きく伸びをしながらそう言うと


「ですよねー…たまには変わったモノ食べたいですよね」と新井君も私をチラッと見ながら呟く。


「島津課長、成宮部長とデートに使ってるお洒落な店とかあるんでしょ?連れてって下さいよ」

「デート?あんまり外で食事とかしないし…」と言い掛けて、フッとある店が頭に浮かんだ。


「そうだ。いい店がある!!」


タクシーに乗り、到着したのは錦の繁華街。


「ここよ」


それは、成宮さんの同級生がやってるパブ"フォーシーズン"


「へぇ~いい感じの店ね~」


明日香さんも気に入ったみたいで、早々にカウンター席に座り店内を見渡している。


「やあ、星良ちゃん。いらっしゃい」

「こんばんは。今日は会社の人を連れて来たの。
明日香さんに新井君。宜しくね」


2人をマスターに紹介して、私も明日香さんの隣に腰を下ろし、新井君もキョロキョロしながら私の隣に座った。


「ここのマスターはね、成宮さんの同級生なのよ」

「へぇ~そうなんですかー」


明日香さんも新井君も、すぐにマスターと意気投合して盛り上がってる。


そして、1時間ほど経った頃だった。新井君がトイレに立ち、明日香さんと2人になると、私は成宮さんの誕生日の件を明日香さんに相談してみた。


「バカね~独身最後の誕生日じゃない。2人でお祝いするのが普通でしょ?」

「明日香さんも、そう思う?」

「全く…仕事ではシビアでやり手のくせに、恋愛になると、途端にダメ女に変身しちゃうんだから…。行ってきなさい」

「そうしようかな…」


私がそう返事した直後、マスターが3杯目のカクテルを眼の前にソッと置いた。


「おまたせ"Dear tear"です」


"Dear teat"……"愛しい涙"



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