涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「わぁー…綺麗なブルーねぇ」


明日香さんがうっとりした眼でカクテルを見つめてると、マスターが得意げに言う。


「自信作なんだよ」

「ネーミングもいいわね。なんだか、切ない大人の恋って感じで…」

「おっ!!さすが鋭い!!
実はね、このカクテルの名前は常連さんがつけてくれたんだよ。
星良ちゃんには以前、話したよね」

「あ、はい」

「それより、今、成宮の誕生日がなんとか…って言ってなかった?」

「えぇ、明日は彼の誕生日だから、お祝いに東京に行こうかなぁ…って」


マスターが不思議そうな顔で首を傾げた。


「成宮の誕生日…?
アイツ6月だったっけ?」

「そうですよ。6月16日」

「うんうん。16日だったのは覚えてる。6月だったんだね。
アイツに会ったら、誕生日パーティーしてやるから顔出す様に言っといてよ。

あぁ、そうだ。
その時に一緒に結婚祝いもしようか?
この店貸し切りにするから、会社の人達も呼んでさ」


「えっ?いいんですか?」と喜んでる私の横で明日香さんが眉間にシワを寄せ、痺れを切らした様にデカい声を張り上げた。


「もう、そんなのはどうでもいいから、マスターさっきの話しの続き聞かせてよ!!」


どうでもいいって…私の結婚祝いがどうでもいいの?
それ、酷くない?
ったく…明日香さん、こういう類の話しは大好物だからなぁ~…


明日香さんの迫力に、少々、引き気味のマスター


「ほらほら、その常連さんは、なんでそんな名前を付けたのよ?」


「あ、うん。その常連さんが言うには、とても愛してる女性が居て、その女性は笑顔はもちろん素敵だけど、泣き顔が堪らなくそそられる人だそうで…」

「泣き顔…ですか?」


なぜかドキッとした。


「あぁ、だから"愛しい涙"なんだよ。でも、自分はその女性をどんなに愛していても幸せにしてやれない。本当に申し訳ないと思ってるって言ってたなぁ~」


どんなに愛していても…幸せにしてやれない…?


なんなの?この胸騒ぎは…

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