涙と、残り香を抱きしめて…【完】

…マダム凛子のショーでの結婚式…


ショーまで、あと10日。
今更、結婚は出来なくなりましたなんて言ったら、ショーは台無しになる。
それに、桐子先生や香山さんに申し訳ない。


でも、このまま何も無かった顔をして結婚式なんて出来ないよ。


それに…成宮さんは、どうするつもりなんだろう?


もしかしたらショーの事もあって、マダム凛子の手前、安奈さんの事を私に言い出せず悩んでいるのかもしれない。


本当は、別れたいのに、別れられないと思ってるとしたら…


私は、完全に邪魔者だ。
そんなの…イヤ…
私にだって、プライドがある。
そんな風に思われながら結婚式なんてしたくない。


どうしていいか分からず、気持ちは沈んでいくばかり…


そして、名古屋駅に到着すると、私は意を決して携帯をバックから取り出した。


私を裏切った成宮さんを思いっきり責め、安奈さんを罵倒してやりたかった。
けど、結局、通話ボタンを押す事が出来ず携帯をバックに戻す。


感情の赴くままに怒鳴り散らして、なんになるの?
そんなの…ただの負け犬の遠吠えじゃない。
余計、自分が惨めになるだけだ…


それに、ショーの事が何より気掛かりだった。


私個人のプライベートな問題なら、成宮さんと別れる事になっても何ら問題は無い。


でも、ショーには多くの人が関わり、莫大なお金が動いてる。
マダム凛子の集大成と言っていたドレスのお披露目でもある。


そして、ピンク・マーベルの社運を掛けた大プロジェクトだ。


皆がどれほど大変な思いをして準備をしてきたか知っているだけに、私がそれをぶち壊す様な事なんて…出来ない…


出来ないよ…


かと言って、自分の人生を左右する大切な結婚式を、こんな気持ちで迎えたくない…


雁字搦めになった私の心は、悲鳴を上げていた。








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