涙と、残り香を抱きしめて…【完】

何もせず、そして、なんの結論も出せないまま日曜日の夜を迎えていた。


すると、今まで沈黙していた携帯がメールの着信を知らせる。
それは工藤さんからのメールだった。


《こんばんは!!もう名古屋に帰って来た?
楽しい休日を過ごせたかしら?

それと一つお知らせです。
桐子先生が一般病棟に移ったそうよ。
面会も出来るみたいだから顔を出してあげてね》


「桐子先生が…」


嫌な事続きだった私に、久しぶりに届いた嬉しい知らせ。思わず工藤さんの携帯に電話を掛けてしまった。


「工藤さん、桐子先生は、もう大丈夫なんですか?」

『あ、メール見てくれたのね。
そうよ。術後の経過も順調みたいだし、もう心配いらないわ」

「そうですかー…良かった」


ホッと胸を撫で下ろす私に、工藤さんが触れて欲しくないあの事を聞いてきた。


『で、成宮君とはどうだった?
会いに行ったんでしょ?』

「え、えぇ…まぁ…」

『何?その歯切れの悪い返事は?
久しぶりに会ったのに喧嘩でもしたの?』

「…喧嘩なんて…
チラッと姿を見て帰って来たから、話しもしてません」

『はぁ?それ、どういう事?』


しつこく聞いてくる工藤さんに、どうしても本当の事は言えず、話しを濁し携帯を切ってしまった。


言えない…
ショーに関わってる工藤さんには、言えないよ…


こんな時、相談出来るのは一人だけ。
明日香さんしか居ない。


私は縋る思いで握り締めていた携帯を再び開く。


「…明日香さん」

『星良ちゃんじゃない。帰って来た?
どうだったのよー!!久しぶりの熱い夜は~燃えちゃった?』


茶化す様に笑う明日香さんの声を聞いたとたん、様々な想いが込み上げてきて眼には薄っすらと涙が滲む。


「明日香さん…成宮さんに、女が居たの…
私、とうすればいい?」







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