涙と、残り香を抱きしめて…【完】

明日香さんの驚きはハンパなかった。


『何言ってるの?悪い冗談はやめてよ』

「冗談なんかじゃない。
成宮さんには、間違いなく女が居る…」


私は、彼のマンションの前で見た全てを明日香さんに話した。


『ちょっと待ってよ!!
安奈って…専務の?
何がどうなって、そんな事になったのよ?』


明日香さんが困惑するのも無理は無い。
私だって、その事実を目の当たりにした時はワケが分からなかったもの…


「多分、成宮さんと安奈さんは、随分前からそういう関係だったんだと思う。

仁は私が安奈さんの話しをしても何も言わなかったけど、あの2人は別れていたんじゃないかな…

それに…仁にも新しい彼女が居るみたいだし…」

『うわぁ~…
なんなの?その展開…
で、専務の新しい彼女って…誰?星良ちゃんが知ってる人なの?』

「それは…」


まだ確実な証拠は無いと前置きした上で「マダム凛子だと思う」と言うと、電話の向こうで明日香さんが大絶叫。


『ありえない…いったい、どうなってるのよ?
私の頭ん中の相関図が、ぐっちゃぐちゃになってるんだけど…』


そこで、工藤さんには悪いと思ったが、彼女に聞いた仁とマダム凛子の過去を明日香さんに話してしまった。


『なるほどね…あの2人、そんな関係だったの…
それなら、あり得るかもね。

それより、あの安奈って娘の事なんだけど…』


急に明日香さんの声が低くなる。


「何?」


私が聞き返すと、電話の向こうから部屋のチャイムが鳴る音が聞こえた。


「明日香さん、お客さん?」

『あ、うん。ごめんね。
今夜、大学時代の友達が泊まりに来る事になってたのよ。

悪いけど、続きは明日、会社で…いい?』

「分かった。じゃあ、明日…」


なんか中途半端に会話が終わってしまったけど、明日香さんに話しを聞いてもらえて、少し気持ちが楽になった様な気がした。



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