涙と、残り香を抱きしめて…【完】
月曜日…
会社で話しの続きをしようと明日香さんと約束したが、ショーの裏方を務める他の部署からの応援の人達がオフィスにわんさかやって来て、なかなか2人っきりになるチャンスがなく、まだ何も話せてない。
やっぱ、仕事中は無理か…
ランチの時にでもゆっくり…そう思っていたら、マダム凛子が現れた。
一気にオフィスが静まり返り、緊張感が漂う。
つばの広い帽子をデスクの上に放り投げると、ドカリと椅子に座り大胆に足を組む。
あっ…あの帽子…
やっぱり、仁の車に乗ってたのはマダム凛子だったんだ…
「皆さん、お疲れ様。
早速だけど、今からショー当日のスケジュールと仕事内容を説明します。
皆さんの働きによって、ショーの善し悪しが決まると言っても過言じゃないわ。
私の事務所スタッフと協力して最高のショーにしましょう」
ピリピリしたムードの中、全員が真剣な表情でメモを取っている。
1時間ほどで一通りの説明が終わると、マダム凛子が私をチラッと見て
「明日、東京に残っている私の事務所のスタッフと成宮が名古屋に来る予定です」と言った。
心臓がドキリと大きく音を立てた。それと同時に、なんとも言えない複雑な気持ちになり、私は堪らずマダム凛子から眼を逸らしていた。
成宮さんが…戻って来る…
成宮さんが…
「じゃあ、皆さんはショーの前日に行われるリハーサルから参加してもらいます。説明は以上よ。解散」
そう言ったマダム凛子が仁と視線を合わせると、ゆっくり立ち上がる。
「水沢専務、今から式場の照明設置に立ちあう事になってるの
あなたも一緒に来てくれる?」
「あぁ、分かった」
短い会話を交わしオフィスを出て行く2人を、無意識の内に眼で追っていた。
仁とマダム凛子は、やっぱり付き合っているんだろうか…
私には関係ない事だと思っていても、なぜかザワつく心
すると、誰かが私の肩を叩いた。