涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あの2人の事、気になる?」
「明日香さん…」
「そろそろお昼ね。出ようか?」
オフィスを出た私達が向かったのは、例の"めし屋"さん。
トレーに鯖の塩焼きを乗せながら明日香さんがため息をついている。
「はぁーっ…。成宮部長、どういうつもりなんだろうね…」
「あ、うん…」
「あ、うん。じゃないでしょ?
どうするの?結婚式はもうすぐなのよ」
「分かってる…分かってるけど、ショーの事もあるから…」
「はぁ?何言ってんの?
ショーと自分の結婚と、どっちが大切なの?」
「それは…どっちも…」
さっきより大きなため息をついた明日香さんがトレーを乱暴にテーブルの上に置くと、凄く怖い眼で睨んでくる。
「お人好しが過ぎるんじゃない?
成宮部長が帰って来たら、ちゃんと話した方がいいわよ」
明日香さん、完全に怒ってるな…
「話しはするつもりだよ。
でも、ショーは…どうしても成功させたいの」
鯖の塩焼きに勢いよく箸を突き刺した明日香さんが、周りの事など気にする様子もなく大声を張り上げた。
「成宮部長が、あの安奈って娘を好きだって言ったら?
それでも星良ちゃんは、ショーを成功させたい?」
「…うん。成功させたい」
それは、偽らざる私の本心
「そう…。どんな事があっても結婚式はするって事なのね?」
「…え、えぇ…」
そう答えた私だったけど、まだ迷いはあった。
ショーは成功させたい。でも、結婚となると…
そんな揺れ動く私の気持ちを察したのか、明日香さんがニヤリと笑った。
「何よ。偉そうな事言ってる割には動揺してるじゃない」
「あ…」
見透かされてる。
明日香さんには敵わないな…
「ホント、星良ちゃんは分かりやすいわね」
そう言って苦笑いを浮かべた明日香さんが、突然、思いもよらぬ事を言ったんだ…
「仕方ないな…
星良ちゃんの為だもんね…協力するか…
ショーを成功させ、結婚しないで済む方法を教えてあげる」