涙と、残り香を抱きしめて…【完】

即答出来なかった…


「そんな事は…」

「…ないって言い切れる?
例え、あの2人が何もなかったとしても、星良ちゃんの成宮部長に対するわだかまりは消えないんじゃない?」

「あ…」


成宮さんと安奈さんが付き合ってなかったら…?
そんな事、あの2人を見た時から考えた事もなかった。


だって、あの夜の2人は、仲のいい恋人同士にしか見えなかったから…


もし、あの2人が無関係だったとして、私は今までと同様に、今後も…いえ、一生、彼を信じ付いて行けるんだろうか…


明日香さんが言うように、何かあるごとに思い出し疑いの眼差しを成宮さんに向けるかもしれない。


明日香さんに言われて初めてその事に気付くなんて…


「もう、成宮部長の事は、信じられない?」

「明日香さん…私…」

「やれやれ、図星みたいね」


呆れながらも、別段、驚く様子もなく明日香さんは淡々と話しを続ける。


「もう星良ちゃんの中には、成宮部長じなく違う男が居るんでしょ?」


違う…男…?


私の胸に人差し指を立て、ツンツンと突っつきながら


「この胸の中に居るのは、成宮蒼じゃなく…水沢仁…」


その名前を聞いた瞬間、息が出来なくなるほど強い胸の痛みを感じた。


「そんな…私と仁は…もう…」

「終わったって言いたいの?」

「え、えぇ…」

「そう思い込もうとしてただけじゃないの?
星良ちゃんは、今でも専務の事が好きなんでしょ?

専務の事が気になって仕方ない…
だから仕事中でも、つい彼を見てしまう」

「違う…私、仁を見てなんか…」


今まで私の胸に突き立てられていた明日香さんの人差し指が移動し、動き掛けた唇に押し当てられる。


「シッ…最後まで人の話しを聞きなさい。
それと…フォーシーズンのマスターが言ってた常連さんの話し
アレ、専務の事でしょ?

そして"愛しい涙"の主は、星良ちゃん…
あなたよね?」


えっ…


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