涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「うそよ!!そんなの大うそよ!!」
「星良ちゃん…」
そんなの信じられれない。
「あの時、仁は安奈さんと同棲してたのよ!!
どうして私の為に離婚なんてするのよ!!
安奈さんの為に離婚したって考える方が自然じゃない」
興奮して怒鳴る私の手を明日香さんが強く握りしめ
「落ち着いて…聞いて」と一喝された。
明日香さんが言った事に納得したワケじゃないけど、何時になく真面目な眼をした彼女に促され渋々、小さく頷く私。
そして、明日香さんの口から語られたのは、想像もしていなかった驚きの内容。
「安奈さんはね、専務の恋人じゃなかったのよ」
「はぁ?」
いきなりの爆弾発言に言葉を失う。が、何を言ってるんだろうと苦笑いを浮かべていたんだ…
明日香さんの次の言葉を聞くまでは…
「安奈さんは…専務の実の娘なの」
一瞬、自分の耳を疑った。
安奈さんが、仁の娘?
「…明日香さん、私の事…からかってるの?」
「な、ワケないじゃない。これは、紛れも無い事実。
専務から直接聞いたんだから」
「違う!!そんなはずない!!
だって仁は、私に安奈さんを恋人だって紹介したのよ」
「それは、星良ちゃん。
あなたに幸せになって欲しいと願った専務の悲しい嘘だったのよ。
自分と居ても幸せにしてやれない。
だから娘の安奈さんを恋人に仕立てて別れようとした」
「そんな…」
「でもね、星良ちゃんと別れて専務は気付いたのよ。
本当に自分に必要なのが誰かって…
だから離婚を決意し、あなたとよりを戻そうとしたの。
でも、遅すぎた…
その時、既に星良ちゃんは成宮部長と結婚を決めた後だったのよ。
専務言ってたわ。
星良ちゃんが嬉しそうに『成宮さんと結婚する』って言ってたって…」
えっ…
「それって…もしかして…あの時…」