涙と、残り香を抱きしめて…【完】

仁がフィットネスクラブに来たあの日の事を言ってるの?


私を初めて部屋に誘ってくれたのは、その事を言う為だったの?


なのに私は、仁が離婚すると聞いて、それが安奈さんと結婚する為だと勘違いし悔しくて成宮さんと結婚すると言ってしまった…


「それで専務は決心したみたいね。
星良ちゃんがそう決めたのなら、自分は引き下がろうと…
遠くから、あなたの幸せを願う事を選んだのよ」

「仁が?…ホントに、仁がそう言ったの?」

「えぇ、専務は自分の事より、星良ちゃんがどうすれば幸せになるかを考えてた…」


知らなかった…
仁がそんな風に考えてくれてたなんて…


私はバカだ。
仁の優しい気持ちに気付く事無く
彼を傷付ける様な酷い事ばかり言ってしまった。


なのに仁は、そんな私に幸せになれと言ってくれた。
私の花嫁姿が楽しみだとも言ってくれた。


仁がどんな気持ちでそう言ってくれたのか、それを想像するだけで胸が押し潰されそうになり


苦しくて…
切なくて…


溢れ出た涙が次々に零れ落ちテーブルの上に小さな水たまりを作っていく。


「いやぁ…仁…仁…」


優しく背中を撫でてくれてる明日香さんにしがみ付き、だだ泣く事しか出来ない私。


「専務が好きなら、その気持ちを伝えたら?」


そう言ってくれた明日香さんに、私は大きく首を振った。


「もう遅いよ…」

「どうして?」

「だって、仁には好きな人が…」

「マダム凛子の事を言ってるの?
でも、まだ付き合ってるかは分からないじゃない」

「そうだけど…」

「まだ間に合うかもしれないでしょ?
後で後悔しない為にも、ちゃんと気持ちを伝えないとダメよ」


まだ、間に合う?
今だったら、まだ…


仁は私を愛してくれるだろうか…


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