涙と、残り香を抱きしめて…【完】

ありのままの…私?


「無理に笑う必要もなければ
カメラを見る必要もない。
君は、そこに居てくれればいい」


それは、モデルになって初めて言われた言葉だった。
うぅん。違う…
生まれて初めて言われた言葉だ…


この私が、他人に認められた瞬間


「安部ちゃん、どう?」

「うん。なかなか面白い。
ランジェリー姿の女が泣いてるなんて
被写体としてはグッとくるモノがある。

ファインダー越しに見ると
一段と刺激的だ。

でもこれは通販用のサイトに載せるヤツだろ?
趣旨が違ってこないか?」

「いいんだよ。
在りきたりのセクシーモデルを使うより
断然、インパクトがある。

まず、サイトに来てもらった客に興味を持ってもらうことが大切なんだ。
彼女の写真はトップページに載せる」


えっ…私が…トップページに?


「あの…それって、私をモデルとして採用して下さるって事ですか?」

「あぁ、君にピンク・マーベルの専属モデルになってもらいたい」


専属…モデル…


シャッターが下りる音とフラッシュの光の中
再び目頭が熱くなり
今度は嬉し涙が零れる。


「有難う…ございます」


自分の居場所が出来た事が
嬉しかった…


そして、もう一つ
強引だけど、どこか安心感を与えてくれる
この人…


私をモデルとして認めてくれた
水沢仁という男性に出逢えた事が
何より嬉しかった。


その後、私は彼らと契約書を交わし
晴れてピンク・マーベルの専属モデルとしての日々が始まったんだ…
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