涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「あっ…」
「ただいま。星良」
そう言って両手を広げ微笑んでいるは、私の婚約者
成宮蒼
「わぁー!!成宮ぶちょー!!
お帰りなさーい」
なぜかその胸に飛び込んで行ったのは、新井君。
まるで最愛の人と再会したかの様に感激し、成宮さんに纏わりついている。
なのに…
本当の恋人の私はと言うと…
怖いくらい冷めていた。
「…長い間、お疲れ様」
「あぁ、寂しい想いをさせて悪かったな」
新井君を押し退け近づいて来る成宮さんを、私は避ける様に歩き出す。
「星良?」
「ごめんなさい…今から出るの」
久しぶりの再会だもの。ホントはもっと笑顔で迎えてあげたかった。
抱き付いて「逢いたかった」と、その胸で甘えたかった。
「どこに行くんだ?」
「ショーの会場になってる式場よ」
「おっ!!なんだ、丁度良かった。
本当は俺も直接、向こうに行く予定だったんだが、星良の顔が見たくてこっちに寄ったんだよ」
「えっ…」
「一緒に行こう」
嘘…でしょ?
私は助けを求める様に明日香さんを見つめる。
今、成宮さんと2人っきりになりたくない。
2人っきりになれば、自分で自分の気持ちをコントロール出来なくなり、私はきっと、安奈さんの名を出してしまう…
そうなれば、もう歯止めが利かなくなり、彼と安奈さんを責め結婚式どころじゃなくなってまう。
「成宮部長、私も式場に行く事になってるんだけど…
ご一緒してもいいかしら?
あ、ついでに新井君もね」
私の気持ちを察してくれたんだろう…
明日香さんが助け舟を出してくれた事にホッとし、胸を撫で下ろす。
「あ、そうなのか?」
「そうよ。皆で仲良く行きましょ」
ポカンとしてる新井君の腕を掴みオフィスを出て行く明日香さんを追い、私と成宮さんもオフィスを後にした。