涙と、残り香を抱きしめて…【完】
【永遠の想い】
様々な愛の形
社用車の運転席には新井君が乗り込んだ。
当然、部長である成宮さんは後部座席に乗るはずだったんだけど…
明日香さんが強引に私の腕を引っ張り後部座席に乗り込んでしまったので、必然的に成宮さんは助手席に座る事になってしまった。
「有難う…明日香さん」
小声でそう言う私に、明日香さんはペロリと舌を出し「なんの。なんの」と小さくガッツポーズをする。
前の席では新井君のマシンガントークが炸裂して、成宮さんはその受け答えに必死だ。
お陰で成宮さんに話し掛けられる事なく私は一安心。
この時ほど、新井君がお喋りで良かったと思った事はない。
でも、成宮さんの顔を見るまでは、まさか自分がこんなに動揺するとは思ってもなかった。
もっと割り切って冷静に対応出来る自信があったのに…
彼の顔を見ると、どうしても安奈さんの顔が浮かんできて怒りが込み上げてくる。
明日香さんの言う様に、まだ2人がそういう関係かは分からない。
それに、私だって心の中では仁の事を想い成宮さんを裏切っているのにね。
都合のいい自分に苛立ちを覚え、どんより曇った空を見上げため息を漏らす。
そして結婚式場に到着した私達は車を降り、チャペルの正面玄関がある中庭に向かって歩き出した。
すると、たちまち3人のテンションが急上昇!!
あ、そうか…3人はここに来るのは初めてだったんだ。
私も初めてここに来た時は興奮したもんね。
でも、一面芝生だった中庭は、かなり様変わりしていた。
教会の玄関から真っすぐに伸びたステージ。ランウェイだ…
その両端の奥には、照明塔の工事が進められている。
そんな中、作業着だらけの現場に、ひと際目立つ華やかな男女の姿を見つけた。
女性はマダム凛子…
隣の外人男性は誰だろう…
「ちょっと!ちょっと!成宮部長、あの金髪イケメンは誰?」
やっぱ、明日香さんもそこに食いついたか…。興味深々って感じで成宮さんに訊ねてる。
「あぁ、あの人は、凛子先生の彼氏だよ」