涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「うっそー!!あの人が、マダム凛子の彼氏?」


明日香さんが大声を上げ眼を白黒させている。
その隣で私も驚きを隠せない。


あの人が…マダム凛子の彼氏…
やっぱり、彼氏居たんだ。


「ビックリだろ?俺も初めて会った時は驚いたよ。
なんせ、歳が俺と同じなんだもんなぁ~」

「えっ!!そうなの?
で、何者なの?あの金髪彼氏」

「彼の名前はピエール。プロデューサーだよ。
今回のショーでは、総合プロデューサーをしてる」

「へぇ~そうなんだ…」


あの彼氏がプロデューサーでショーを仕切ってるって事は、当然、仁にも会ってるワケだ…


仁とマダム凛子が以前、恋人同士だって事は知ってるのかな?
それに、また2人が怪しいって事も…


でも、仁とマダム凛子が接近し出したのは最近だろうし、気付いてなのかもね。
今は微妙な三角関係ってとこか…


なんて考えていると、突然、マダム凛子の怒鳴り声が聞こえてきた。それに続き彼氏も何か訴える様に叫んでる。


「えっ?何?どうしたの?」


私達4人を含めた周りの視線が一気に2人に集中する。


おそらく2人が喋っているのはフランス語。
なので何を言っているのか全く分からない。


しかし雰囲気からして、かなりヤバい感じだって事は分かった。


言い合いは徐々にエスカレートし、とうとう掴み合いの喧嘩にまで発展。


明日香さんが「止めなくていいの?」と成宮さんの顔を見上げると、流石に成宮さんもヤバいと思ったのか「だよな…」と言って走り出しす。


でも、数メートル走った所で成宮さんの足が止まった。


あれは…


取っ組み合いの喧嘩をしてる2人の間に割って入ったのは…


仁だった。


金切り声を上げ髪を振り乱すマダム凛子を押さえ付け、彼氏に落ち着く様促している。しかしマダム凛子の怒りは収まらないみたいで、尚も手を伸ばし彼氏に掴み掛ろうとしている。


仁一人では無理だと思ったのか、数名のスタッフが3人の元に駆け出した。


その時…


小柄なマダム凛子の体を、仁が包み込む様に抱きしめたんだ…


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