涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「ああぁぁ…頭…痛い」


朝日が差し込むベットの上
私は鉛の様な重い体を起こし
辺りを見渡す。


ツイン部屋…
隣のベットで眠っているのは
間違い無く
水沢仁


「ええっ?」


慌てて自分の体に眼をやると
しっかり服を着て
パンストもそのままだ。


「…んっ?起きた?」

「水沢さん…」


寝むそうに伸びをしながら
起き上がった水沢仁がクスッと笑う。


「星良ちゃんって、酒豪だね。
でも、限界超しちゃったな…
ここまで運ぶの大変だったんだよ」

「す、すみません!!
私ったら…どうしよう…」

「本当なら、君の家に送って行くのが筋だろうけど
家知らないし…
意識の飛んだ君を一人でホテルの部屋に置いてくワケにもいかなくてね…」


いつもとは違う無造作な髪
はだけたワイシャツから覗く引きし締まった胸
見てはイケナイものを見てしまった様な気がして
眼を伏せる。


「心配しなくていい。
何もしてないよ」


その言葉がズキリと胸に突き刺さる。


それは、私を女として見てくれてないから?
抱く気になれないほど
私には魅力が無かったんだろうか?


なんだか…寂しい…


それから私は、水沢仁の事が気になって仕方なく
仕事が無くてもピンク・マーベルにせっせと通い
彼の好きな食べ物を聞いては
それを差し入れしたりしてた。


当時のピンク・マーベルは
古びたビルの小さなオフィスに
社員3人パートさんが5人の小さな会社で
アットホームな感じだった。


でも、売り上げが上がるにつれ
少しずつ変わっていく雰囲気…




< 30 / 354 >

この作品をシェア

pagetop