涙と、残り香を抱きしめて…【完】
「う…ん。マダム凛子は今回のショーが終わったら、日本を離れパリに活動の拠点を移すって言ってたでしょ?」
「えぇ…」
「いくら契約の条件としてブランドを扱う権利をピンク・マーベル与えたと言っても、バックにはマダム凛子のネームがあるワケだし、イメージってモノがあるからそのイメージを壊す様な売り方はして欲しくないってマダム凛子の事務所から言われたそうよ」
「そう…」
確かにこの世界はイメージを重視する傾向はある。
でもそれって、ピンク・マーベルにはセンスも販売能力もないと言ってのと同じじゃない。なんだかバカにされてるみたいで気分が悪い。
「で、マダム凛子の眼の届く所にショップをオープンさせ、レイアウトなんかの監修をしてもらって、日本のショップもそれと同じ内容にするって事になったんだって。
名古屋と東京の店舗はウチの会社が全額出資してマダム凛子側からは独立した経営にするけど、パリはマダム凛子との共同出資でオープンさせる事に決まったそうよ」
「ふーん…。なんだか納得出来ないけど、決まったのなら仕方ないわね」
唇を尖らせムッとしながらそう言うと、明日香さんが「ここからが問題なのよ…」と眉間にシワを寄せた。
「そのパリのショップに、ピンク・マーベルの優秀な社員を派遣して欲しいって要望があったそうなの」
「そう。でも、どうしてそれが問題なの?」
「あのね…これはあくまでも事業開発部での噂らしいんだけど…」
「うん」
「どうも、その派遣される社員って…
専務らしいわ」
「えっ…」
仁が…?
仁がパリに行っちゃうって言うの?
「…うそ…でしょ?」
余りのショックにそれ以外の言葉が出ない。
信じられない…
うぅん。信じたくない。
でも明日香さんの次の一言が、更に私に衝撃を与えた。
「専務を指名したのは、マダム凛子らしいわ…
専務以外は受け入れないって…」