涙と、残り香を抱きしめて…【完】
気付けば、オフィスは街の中心部に移り
会社の規模はどんどん大きくなっていく…
そんな時だった…
私が水沢仁に呼び出されたのは…
以前、私が酔い潰れて
彼と一緒に泊まったホテルのバー
「すまないね…呼び出したりして」
「いえ…」
何時になく真剣な表情の彼に
凄く嫌な予感がした。
「悪いけど、星良ちゃんとの契約を解除したい」
「えっ…?」
「君との専属契約は、今月で終わりにしたいんだ」
「…どうして?」
頭の中が真っ白になるとは
こういう事を言うんだと
その時、思った。
「私のどこが悪かったんですか?
言って下さい!!
直します。必ず直しますから…
だから契約解除だなんて…
言わないで…」
縋(すが)る様に懇願する私を
真っすぐに見つめる水沢仁
「…君が悪い訳じゃない。
ピンク・マーベルは、ランジェリー事業から撤退する事が決まったんだよ」
耳を疑った。
あれだけ人気が出て
売り上げも好調なのに…
「どうしてですか?
なぜ撤退?」
「会社の方針だ。
これからは、若いティーン向けの衣料にシフトしていく」
「イヤ…イヤです…
私、水沢さんと離れたくない」
「星良ちゃん…」
「水沢さんと…一緒に居たい」
混乱した私は、つい本音を口にしていた。
すると彼は、思いもよぬ事を言ってきたんだ。
「星良ちゃん…
ウチの会社に…来ないか?」