涙と、残り香を抱きしめて…【完】
いったい私は、今まで何をしてたんだろう…
周りの空気に呑まれ弱気になり、挙句の果てにあのざまだ。
私は、私を支えてくれた全ての人の気持ちを裏切ってしまったんだ。
このまま裏切ったままで終わるのは、絶対イヤだ!!
気付けば、マダム凛子を取り囲んでいたモデル達は姿を消し、マダム凛子が一人ソファーに座りタバコの煙を燻らせていた。
私は真っすぐ彼女の元へ歩み寄ると深く頭を下げた。
「…凛子先生、ご迷惑をお掛けしました」
「今のモデル達の話し聞いてたんでしょ?」
「はい」
「どう思った?」
「その通りだと思いました。
でも、もうあんな失態は繰り返しません」
フッ…と鼻で笑ったマダム凛子がタバコを灰皿に押し付けながら言う。
「誤解しないでね。別にあなたを庇った訳じゃないのよ。
私が一番尊敬してるモデル…KIRIKOの言葉を信じただけだから…」
「桐子先生の言葉ですか?」
「そうよ。桐ちゃん言ってたわ。
あなたは使い方一つで大きく化ける最高のモデルだってね。
その才能を引き出すのが私の仕事だとも…
だからあなたを潰せば私が無能って事になるのよ。
全く、冗談じゃないわ。
でも、桐ちゃんが認めたんだから間違いはない。
私はあなたを信じているわ」
「あ…有難うございます」
私は再びこれ以上下げられないというくらい深く頭を下げた。
「今日はもういいから帰って休みなさい。
その代わり、明日は死ぬ気で頑張るのよ。
あ、明日は昼過ぎに来てちょうだい。早くから来てウロウロされても迷惑だから」
「はい…」
部屋に戻って行くマダム凛子を見送り、私はホールの玄関へと歩き出す。
「星良ちゃん…」
玄関から顔を覗かせたのは明日香さん。私を待っててくれたんだ…
「大丈夫?」
「うん。ごめんね。心配掛けて…
ても、もう大丈夫だから」