涙と、残り香を抱きしめて…【完】

嬉しくて舞い上がる私。


「まさか水沢さんが、私の事
そんな風に見てくれてたなんて…

私、水沢さんには魅力の無い女だと思われてるんじゃないかって…」


一晩、一緒に居ても
何も無かったし…


「そんな事ないさ
君は十分、魅力的だよ。

俺にとって、星良ちゃんは特別な存在だ…」


その言葉を聞いて
私は決心した。
自分の気持ちを彼に伝えようと


「水沢さん、私…
ずっと、水沢さんの事が…」

「…知ってる」

「えっ…」

「星良ちゃんが、俺に好意を持ってくれてるって事は分かってた。
でも…」


彼は暗い顔をして
ため息を付く。


そして、私の目の前に自分の左手を差し出す。


彼の薬指には、シルバーのリングが光っていた。


「分かってます。
水沢さんが結婚してるって事は
でも、好きなんです」

「星良ちゃん…」


今まで封じ込めていた自分の想いを吐き出した事で
もう気持ちを押さえる事が出来なくなってた。


「好きで…好きで…
朝起きて、夜眠るまで
ずっと水沢さんの事ばかり考えてました。

もう、水沢さんしか見えない…」


もう一度、彼は深いため息を付いく。


「妻とは、別居して2年になる。
おそらく修復は難しいだろう…

でもまだ、結婚してる事には変わりない。
君に辛い思いをさせるかもしれない」

「構いません。
水沢さんと一緒に居れるなら
他には何も望まない…

どんな辛い事も耐えます。
だから…」


私の頬を流れる涙を親指で拭った水沢仁が
力無く笑った。


「この涙は、反則だぞ…」

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