涙と、残り香を抱きしめて…【完】
サプライズ
それは…夢?…幻?
この非現実的な雰囲気の中で、私は無意識の内に幻夢の世界に堕ちてしまったの…?
新郎の成宮さんの声が…姿が…
仁に見える。
何度眼を凝らして見ても、私が腕を絡めた彼は、成宮さんに姿を変える事は無かった。
「なぜ仁が…」
仁は笑顔を絶やす事無く前を向いたまま、私にだけ聞こえる小さな声で言う。
「説明は後だ。取り合えず、ショーが終わるまでは笑ってろ」
頭の中はパニック寸前。でも、ここで取り乱すワケにはいかない。
息を整え前を向くと、何事も無かった様に招待客のテーブルをまわり笑顔でドレスを披露する。が…仁の事が気になり高鳴る心臓の音は全く治まる様子はない。
ドキドキドキ…
すると、最後のテーブルに差し掛かった私に、更なる衝撃が…
そのテーブルに居たのは、号泣する父親と、凄い厚化粧で薄気味悪く微笑む母親だった。
「なんで?ショーには来ないでって言ったのに…」
独り言の様に呟くと、隣の仁が「バカ、結婚式にご両親を呼ばないでどうする?」なんて言う。
違う…私は結婚なんてしないのに…
心の中でそう叫びながら、フッと思う。
そうだ…成宮さんはどうしたの?
まさか急病とか?それとも怪我でもして出られなくなったの?
やっとテーブルをまわり終え、仁と腕を組んだままランウェイに戻りチャペルの玄関へと向かう。
その途中、ショーを成功させたという安堵の気持ちと共に張り詰めていた緊張の糸が切れ、一気に動揺してしまい私の意識は半分飛んでいた。
パタン…
やっと辿り着いたチャペルの扉が閉まると、チャペル内は拍手と喝采の渦。見慣れた顔が勢揃いして私と仁を迎えてくれた。
抱き付いてきたのは明日香さん。
「良かったよ!!ホント、最高のショーだった」
「…まだ結婚式が残ってるから…」
やっとの思いでそう言った私に、マダム凛子が首を振る。
「いいえ、ショーは終わりよ」
「えっ?」
「次は正真正銘…ショーとは関係無い本当の結婚式だから…
島津さんと仁のね」