涙と、残り香を抱きしめて…【完】
私と…仁の結婚式?
「すみません…凛子先生の言ってる言葉の意味が良く分からなくて…」
「あら?そんなに難しい事は言ってないと思うけど?
それとも何?仁と結婚したくないとでも?」
「えっと…それは…」
「素直になりなさい。あなたの気持ちは分かっているんだから」
私の気持ち…?
そうだよ。確かに出来るものなら、仁と結婚したいと思ってる。
でも…
その時、私の肩にひんやりとした手が触れた。
「星良…」
「成宮さん…どういう事なの?」
「すまない。これは全て星良を驚かす為のサプライズだったんだよ…」
「サプライズ?じゃあ、私だけが知らなかったって事?」
コクリと頷いた成宮さんが複雑な表情で話し出す。
「俺は、星良が好きだ…
今でも結婚したいと思っている」
「成宮さん…」
「でもな、東京に行ってた時、凛子先生に聞かされたんだよ。
星良の本当の気持ちを…
星良が本当に好きなのは、水沢専務だと…
初めは納得出来なかった。そんなはずは無いと思ったよ。
そんな時、同級生のフォーシーズンのマスターから電話があった。
『名古屋に帰ったら、結婚祝いと誕生日祝いをしてやる』ってな。
そして、こうも言ったんだ。
『星良ちゃんと一緒に祝った誕生日は楽しかったか?』と…
意味が分からなかったよ。
だってな、俺の誕生日は6月じゃなく7月なんだから…」
「えっ?そんなはずは…確かに成宮さんの誕生日は6月16日だって工藤さんが…」
私の眼は成宮さんの横に立つ工藤さんに向いていた。
「そうよ。成宮君の誕生日は7月16日。6月じゃないわ」
「工藤さん…どういう事なの?」
工藤さんの体を揺すり問い質すと、彼女は微動だにせず私を真っすぐ見つめ言ったんだ…
「島津さん、覚えてる?
病院の喫茶店で私が言った事…
私は仁君に大きな借りがあるって…
その借りは、どんな事があっても返すつもりだって…」