涙と、残り香を抱きしめて…【完】

「もちろん覚えてます。
でも、その事と成宮さんの誕生日がどう関係するんですか?」

「それはね…
仁君を幸せにする為の嘘。

島津さんに成宮君が他の女性と同棲してる事実を知ってもらう必要があったのよ。
その事を島津さんが知れば、成宮君と別れるだろうと思ったから…」

「ちょっと待って。それじゃあ工藤さんは成宮さんが安奈さんと同棲してる所を私に見せたくて、ワザとあんな嘘をついたって言うの?」

「そうよ。
私は気付いてた。
仁君が島津さんの事を好きだって事を…

だから、仁君の想いを叶えてあげたかったのよ。
私の勝手な理由で夢を諦めた仁君を、どうしても幸せにしてあげたかった」

「そんな…」


工藤さんの気持ちは分からないでもない。
でも、酷い…酷過ぎるよ。


「島津さんには、辛い思いをさせてしまって本当に申し訳ないと思ってるわ。
でも、あなたと成宮君を別れさせるには、そうするしかなかった」

「どうしてそんな回りくどい事を?
直接、私に話してくれれば良かったじゃないですか?」


私は怒りを抑えきれず大声で怒鳴っていた。


「そうね…でも、私が言ったって事がバレれば問題が大きくなると思ったのよ。
ヘタをすれば、ショーの結婚式にも支障が出てくる。

あくまでも偶然、知ってしまったって事にしたかった。

ショーは成功させたいけど、2人が本当に結婚してしまったら元も子もない。
そこで、島津さんの気持ちを利用した…
ショーをなんとしても成功させたいと思ってるあなたの気持ちをね…

大きな賭けだったわ…

たとえ成宮君の同棲を知っても、島津さんはショーが終わるまでは騒ぎ立てたりせず、ショーを第一に考えてくれるんじゃないかと思った。

でも、成宮君への気持ちは確実に冷めていく…それが狙いだったの…

あなたが東京から帰った頃に様子を伺う為にメールしたわ。
すると、島津さんは私に成宮君の事を話そうとしなかった。
それで安心したの。私の思い通りになったって…

でも…仁君と島津さんを一緒にさせる為だったとしても、あなたを騙し辛い思いをさせた事には変わりない。
もちろん、責めは受ける覚悟よ。
本当に…ごめんなさい…」


とんでもない話しだと思った。
あの時、私がどんなに辛く悲しかったか…


でも、ずっと仁に懺悔しながら生きてきた工藤さんを知っているだけに、ソレを責める言葉が見当たらない。


眼に涙を溜め何度も頭を下げる工藤さんを見て、何も言えなくなってしまったんだ。

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