涙と、残り香を抱きしめて…【完】
そして、再び成宮さんが口を開く。
「星良がその事を知ってるって事を工藤さんから聞かされたのは、俺が名古屋に帰って来る直前だった。
正直、驚いたよ。
でも、星良はその事で俺を責める事は無かった。
それどころか、知ってるという素振りさえ見せなかった。
俺なりに色々考えてみて思ったんだ。
凛子先生の言う様に、星良は俺の事を本気で好きじゃないのかもってな。
本気で好きなら、俺を問い詰め怒るはずだって…」
「あ…違う…。だからそれは、工藤さんが言った様にショーを成功させたくて…
それまでは同棲の事は黙っていようと…」
そう言い訳しながら、私は後ろめたさを感じていた。
実際、私は成宮さんを忘れ様としていたから…
「いいんだ…星良…
本当の事を言うとな、俺はずっと不安だった。
お前の中に水沢専務がまだ居るんじゃないかって…
いや…ホントは気付いていたのかもしれない。
でも認めたくなかった」
「成宮さん…」
「そして、星良とここに来た時だ。凛子先生が俺を呼んでるって星良が言ったろ?
あの時、凛子先生に決定的な事実を聞かされた。
星良が水沢専務に告白してたって…」
「あ…」
やっぱりあの時、マダム凛子は私と仁の話しを聞いてたんだ…
「終ったと思ったよ。星良の為にもちゃんと話し合った方がいいと思った。
でも…お前の顔を見ると、何も言えなくなっちまって…
ただ、星良には幸せになって欲しくて、その気持ちと感謝してるって事だけは、どうしても伝えたかった」
「だから、丘であんな事を言ったの?」
「あぁ…その後、凛子先生にショーの結婚式は、星良と水沢専務の為のモノだと聞かされたんだ。
それで決心がついた。
星良を水沢専務に返そうと…」
「なる…みや…さん」
成宮さんの寂しそうな笑顔が胸を締め付ける。彼も一杯苦しんだんだ…
そして、私達だけじゃなく工藤さんも…
でも、どうしても分からない事があった。
マダム凛子の気持ちだ。
「…凛子先生…。凛子先生は、私と仁が結婚しても平気なんですか?」
すると、マダム凛子はキョトンとした顔で「平気よ」と答える。
「でも、凛子先生は仁の事を好きなんじゃあ…」
今度はニッコリ笑ったマダム凛子が「仁の事?えぇ、好きよ」と答えたから、益々分からなくなる。